親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する! peptalk

日本語で「励ましの言葉」を表す「ペップトーク(peptalk)」というものを知っていますか?そのペップトークは、もともと欧米のスポーツの現場で生まれたもの。スポーツを題材にした映画のなかで、大事な本番を前に監督やコーチが熱い言葉で選手たちを励ますようなシーンを観たことがある人も多いでしょう。

その声かけこそが、ペップトーク。スポーツをしている子の親であれば、ペップトークに使う言葉の選び方、逆にNG事項も知っておきたいものです。

日本におけるペップトークの第一人者である、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さんにアドバイスをもらいました。

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

ネガティブな言葉がネガティブなイメージを持たせる

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

「ペップトーク」は、「ポジティブな言葉」で選手たちのやる気を引き出し、背中を押してあげるような言葉でなければなりません。逆に、「○○するな!」といった否定や禁止の言葉など、「ネガティブな言葉」を使うものが基本的にはNGの声かけといえます。

なぜかというと、ネガティブな言葉をかけられると、人間の脳はそのネガティブなイメージを持ってしまうからです。

たとえば、「酸っぱい梅干しをイメージするな」といわれたらどうですか?

みなさんはすでに酸っぱい梅干しをイメージして、なかには唾液が出てしまっている人もいるのではないでしょうか(笑)。

大事な本番に臨む子どもたちにとっても同じことがいえます。「今日は本番だからミスをするなよ」といわれた子どもは、自分がミスする場面をイメージしてしまう。それによって必要以上に緊張したり萎縮したりするということになりかねない。これでは、いいプレーができるはずもありません。

もう少し具体例を挙げましょう。

野球の試合でこれから打席に立つという子どもに、「低めのボールには手を出すな」といったとしたら?その子の頭のなかでは「低めのボール」と「手を出す」ということがイメージされる。そして、低めのボールについ体が反応してバットを出してしまうということにもなるのです。

「してはいけないこと」ではなく「するべきこと」を明確に!

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

では、逆にどんな言葉をかけてあげればいいのでしょうか?

それは、「してはいけないこと」ではなく「するべきこと」を明確にしてあげる言葉です。先の野球の例なら、低めのボールに手を出してはいけないということではなく、「高めのボールに狙いを絞ろう!」とか「甘いボールがきたら思い切りスイングしよう!」といった内容になるでしょうか。

そもそも、野球でもなんでもスポーツの本番に臨む子どもは、それまでのあいだに一生懸命に練習やトレーニングを重ね、「してはいけないこと」や「するべきこと」についてとっくに理解しています。

ならば本番では、これまで練習してきたことをしっかり出し切れるよう、「するべきこと」を、より明確にイメージできる言葉をかけてあげてほしい。

ただ、「するべきこと」とはいっても、「できること」と「できないこと」があることを意識することも大切です。

なぜなら、スポーツの種目にもよりますが、多くは「相手」があることだからです。野球ならば、対戦相手のピッチャーだって「絶対に打たれたくない!」と思ってマウンドに立っているわけです。それなのに、「ここで絶対にホームランを打とう!」といって簡単に打てるなら、チームの子どもたちみんなにそう声をかけますよね(笑)。

そうではなく、子どもたち個人が「できること」にフォーカスして言葉を選ぶことが重要です。たとえば、「ここは大事な場面だから集中していこう!」だったら?

集中はまさに相手とは関係なく個人でできることですから、これはいいペップトークということになります。

子どもの集中力を高めるのは、監督やコーチではなく親

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

いま、「集中は個人でできること」というふうに述べました。基本的には正しいのですが、大事な試合に臨むとなると、緊張の度合によっては集中できないこともあるでしょう。緊張し過ぎても緊張が足りなくても、集中してプレーすることは難しくなります。

どうすれば子どもたちの集中力を高め、大事な本番に臨ませてあげられるのでしょうか?

わたしは、それは親御さん次第だと考えています。というのも、子どもが本番に臨む際にそれぞれどんな反応を示すのかについては、子どもそれぞれでちがうからです。緊張でガチガチになってしまう子もいれば、過剰に興奮する子もいる。

あるいは、落ち着いて練習どおりのプレーをできる子もいるでしょう。それらについて、監督やコーチがすべてを把握することはほとんど不可能です。

でも、親御さんなら話がちがってきます。これまで自分の子どもが試合に臨むときにどんな反応を示してきたのか、親ならばしっかりと子どもを見て把握できているはずです。その経験を生かし、我が子に合った言葉をかけてあげてほしい。

地区予選の1回戦から緊張してしまうような子どもなら、
・「1回戦から緊張しているなんて、ものすごい素質を持っているんだね!」
・「緊張は集中力を高めてくれるあなたの味方だから、もし全国大会になんて進んだら、とんでもない集中力を発揮してすごいプレーができるよ!」

といった具合でしょう。あるいは、まったく緊張していない子どもにかけるなら、
・「みんな緊張しているのに、あなたは大物だね!」
・「その強い力で堂々とみんなを引っ張っていってあげよう!」

といった言葉がいいですね。

スポーツを通じて身につけるべきものは「頑張る力」

親の声かけが、子どもの集中力やプレーを左右する!

最後に、普段からすべきペップトークについてお伝えしておきましょう。本来のペップトークは、まさにスポーツの本番前に行うものです。でも、スポーツをしている子どもに対して行うのなら、普段からの声かけもとても重要。

なぜなら、声かけ次第で子どもの人格が大きく変わるからです。

基本的に、「結果ではなく努力を褒める」ことを意識しましょう。もちろん、子どもが一生懸命に努力して、それまでできなかったことができるようになった

——つまり、結果を出したときには、一緒にたくさんよろこんであげてください。でも、本当に大事なのは、結果に至るまでの過程にある努力なのです。

なにかができた、結果を出したときだけ褒められて育った子どもは、どんな大人になるでしょうか?結果を出すまでの努力を大切なものだと思えないまま大人になるのですから、ちょっとした困難にぶつかるとすぐにあきらめてしまうということも考えられます。

一方、努力を褒められて育った子どもはどうでしょう?

何度失敗を繰り返しても、お父さんやお母さんから

「頑張ってるね!結果はどうあれ頑張ることそのものが大事なんだよ!」
「できないことができるようになるためにあなたが一生懸命に頑張っていること、本当にすごいことだと思う!」

といわれて育ったのですから、社会に出たあとにぶつかる困難に対しても、「なんとかなる!」と思って努力を続けられるでしょう。

この「頑張る力」を身につけることこそが、子どもがスポーツをやることの最大のメリットなのだとわたしは考えています。スポーツをしている子どものうち、実際にスポーツで生計を立てられるようになる子は本当にひと握りでしょう。

でも、スポーツを通じて「頑張る力」さえ身につけられれば、受験だって仕事だって、その「頑張る力」を生かして力強く乗り越えていくにちがいありません。

『心に響くコミュニケーション ペップトーク』

岩﨑由純 著
中央経済社(2010)

今回ご協力いただいたのは…

プロフィール

岩﨑由純(いわさき・よしずみ)
1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。

ライタープロフィール

清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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