子どもが「夢を持ってもすぐに諦めてしまう」「自分なんてと自分を否定してしまう」「嫌なことからすぐに逃げ出してしまう」、こういう時にどう対処すべきなのか、お子さんがスポーツをしている保護者のみなさんには悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
子どもが自分に自信を持ち、スポーツの本番に強い精神力を養うにはどうすればよいのか。 スポーツメンタルトレーナーとして子どもたちをサポートする清水利生さんに全3回にわたって事例別に伺いました。
“自分の戦いに自信が持てない” マサルくん(中学2年生)の例
柔道をしている中学2年生のマサルくんは生真面目な性格です。彼はしっかりと自
分を見つめ、レベルアップしていくための課題も見つけられます。試合のことを聞くと、修正点を的確に出して、次に取り組むべきことまでまとめていました。きちんと分析し、課題を話してくれるその様子は一見悩んでいるように見えませんでした。
そんな彼は、「自分の戦いに自信が持てない」と、話してくれました。
「できなかったこと」よりも「できたこと」を見つけよう
マサルくんのお父さんもマサルくんに似て生真面目な性格だそうです。
「向上するには調子に乗ってはダメだ。常に課題を見つけることが重要なんだよ」
と、お父さんがアドバイスをしてくれていたようです。
その影響からか、マサルくんは試合を振り返るときに「できたこと」よりも、「できなかったこと」に目が行きがちになる癖がありました。良い攻めをしたときにもお父さんから常に言われている「調子に乗るな」というキーワードを大切にしているがゆえに、自分のできている技に目が向いていないように感じました。
私は、自信が持てない子への「調子に乗るな」はNGワードだと思っています。自分のできたことも認めることができないからです。自信は、自分が「できた」と感じれるからこそ作られていきます。 マサルくんが自信を積み重ねることができなかった理由は、「自分を認める」と言う考え方ができなかったからでした。
そこでマサルくんにこう声をかけました。
「思い切って調子に乗ろうよ!」
「大丈夫かな……」
と不安に駆られつつも、彼はトライしてくれました。
私が過去にサポートさせてもらったラグビーチームのニュージーランド代表の選手は、試合を終えた後のふり返りが印象的でした。9つ反省点があり、1つしか良いところがなかったとしても、その1つを見落とすことなく、認めていたからです。
もちろん9つの課題は受け入れますが、1つであっても「できたことはできた」と認める姿勢に自信を構築できている人と、そうでない人の考え方の違いを感じました。
思い切って調子に乗ろう!
1ヶ月後に会ったマサルくんはいきいきと試合の様子を語ってくれました。
「俺こんな投げ技ができたんですよ!」
落ち着いて淡々と話していた1ヶ月前とは別人のようでした。
足元を見つめ、課題を出し続けることはレベルアップには確かに必要です。しかし、課題ばかりに目が向き、良い部分から目をそらす傾向のある日本人はもっと自分を認めて良いのだと感じます。
自信を失っている子どもには小さなことでも思い切って「できているんだ」と自分を認めてもらうことも必要です。調子に乗ることも自己肯定感を育てる一つの方法になると感じています。