「しゅくだいやる気ペン」の力を「子どものやる気を引き出すスペシャリスト」が徹底検証
子どもに「勉強しなさい!」といいたくないとは思いながらも、子どもが遊んでばかりいればそうはいきません。ところが、そんな子どもを激変させる文房具があるといいます。それは、大手文房具メーカー・コクヨが開発した「しゅくだいやる気ペン」。
いったいどんなものなのでしょうか。独自の授業スタイルにより「子どものやる気を引き出すスペシャリスト」として知られる東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生を招き、小学生の子どもを持つ3人のお母さんたちとともに「子どものやる気を引き出す方法」をテーマに存分に語っていただきました。
子どものやる気を引き出す「しゅくだいやる気ペン」とは?
コクヨの調査によれば、「利用した78%の親子が『以前より勉強机に向かうようになった』と実感している」という「しゅくだいやる気ペン」。まずは、開発担当者の中井さんに「しゅくだいやる気ペン」の概要を説明してもらいます。
「しゅくだいやる気ペン」は、スマートフォンのアプリと連動するいわゆるIoT文具です。「子どもの努力を見える化したい」という思いで開発をはじめました。
使い方は簡単。一般の鉛筆に取りつけて電源を入れます。そして、子どもが机に向かって字を書いたり考えたりしていると、その時間に応じて「やる気パワー」がたまる。たまった「やる気パワー」の量は、「しゅくだいやる気ペン」のLEDの色の変化によってひと目でわかります。これが、子どもにとって励みになるわけです。
もちろん、それだけではありません。勉強が終わったら、たまった「やる気パワー」を親御さんのスマホにインストールしたアプリに「注ぐ」のです。すると……、わたしたちが「やる気の庭」と呼んでいるアプリ内のスゴロク形式のステージを進んでいき、さまざまなアイテムを手に入れることができます。強過ぎない程度のゲーム性を盛り込むことで、子どものやる気を引き出す仕組みです。
もちろん、親御さんにもメリットがあります。まずは、子どもの頑張りがひと目でわかるということ。子どもが「しゅくだいやる気ペン」を使った日やためた「やる気パワー」の量は、アプリ内で確認することができます。
そうして、子どもの頑張りがわかれば、子どもを褒めてあげるきっかけを得られることにもなる。また、勉強を終えた子どもは、「やる気パワー」を注ぐために親御さんに「終わったよ!」と誇らしげに報告してくれますから、その場で親子のコミュニケーションが生まれるということにもなるのです。
息子に使わせるのが楽しみです。じつは、この取材の前に、息子に「しゅくだいやる気ペン」の動画を見せてみたんです。そうしたら、目をキラキラさせて「やってみたい!」と。使わせる前からもうやる気になっていますね(笑)。
「達成経験の可視化」が、やる気を引き出す鍵
子どものやる気を引き出すためにはどうすればいいのか? 親が頭を悩ませることのひとつでしょう。とくに新型コロナウイルスの影響によって自宅学習のウエートが上がっているいまは、その悩みもさらに大きなものになっているようです。
やっぱり、毎日のように「何時になったら勉強するの?」といわないと、なかなか勉強してくれないことが悩みですね。自主的にやってくれるようになるといいんですが……。
わたしも子どもに「勉強しなさい」ってあまりいいたくなくて、家庭教育に関する本をいろいろ読んだのですが、結局いってしまっていますね。
そういう意味では、「子どもの努力を見える化したい」という思いで開発したという「しゅくだいやる気ペン」はいいですね。子どもが自ら勉強をするようになるといったやる気を引き出す鍵のひとつは、「達成経験の可視化」だからです。
大人だって同じじゃないですか? 子どもの弁当をつくることが嫌になる親御さんとそうじゃない親御さんがいますよね。後者はどういう人かというと、もともと料理が好きな人もいますが、なんらかの方法で達成経験の可視化をしている人もいます。
たとえば、弁当の写真をSNSにアップして、まわりからの反響が励みになっているケース。自分のページを見返してみれば、これまでつくった弁当の写真が並んでいて、「こんなに頑張ってきたんだ」ということがわかり、それがまた励みになる。まさに達成経験の可視化を自分自身でしているわけです。
「しゅくだいやる気ペン」ではLEDの色を変えることなどで努力を見える化していますが、その特徴がまた別の視点でもよかったようです。
子どもが勉強を終わらせたとき、親としては「正解だったかどうか」というところに目が向きがちですが、そうではなく、とにかく子どもが机に向かって勉強をしたという事実に目を向けて褒めることができるようになったという声も利用者から多く頂いていますね。
「しゅくだいやる気ペン」を、各家庭でアレンジして使う
勉強した分だけたまる「やる気パワー」の量に応じて、アプリ内のステージを進みアイテムを手に入れることで、達成経験を可視化してくれる「しゅくだいやる気ペン」。ただ、沼田先生はちょっとアレンジした使い方も提案してくれました。
たしかに、この「しゅくだいやる気ペン」はよくできていると思います。でも、子どもの好みは千差万別。LEDの色が変わることやアプリ内に用意されたステージを進むことによろこびを感じる子どももいれば、すぐに飽きてしまったり、最初から興味を持たなかったりする子どももいるでしょう。
では、後者の子どもに「しゅくだいやる気ペン」を使わせることに意味がないかというとそうではありません。ステージを進むことに子どもがよろこびを感じないのなら、子どもがよろこびを感じるご褒美を各家庭で話し合って用意すればいい。
子どもの努力を測るためのバロメーターとして、「しゅくだいやる気ペン」を使えばいいのではないでしょうか。
ご褒美について悩みがあって……。娘がご褒美として図書券を欲しがるんです。現金ではありませんが、現金のように使えるものを与えるのはどうなのでしょうか。
なにも悪いことはありません。もちろん、その額面にもよりますが、きちんとお金の価値を教えるという意味ではむしろいいことだと思いますよ。日本の家庭ではお金の存在を子どもから隠しがちです。
子どもたちはお金の価値を教えられないまま成長し、ある日突然社会に出される。そうして、経済的に困ると、気軽に消費者金融などに手を出すことになる。そっちのほうがよっぽど危険です。きちんとお金の価値や使い方を教えるマネー教育だと考えれば、図書券や現金をご褒美にすることになんの問題もないでしょう。
ただ、わたしがおすすめするご褒美は、食事など消え物です。その日限りで終わって、「また美味しいものを食べたい!」というふうに、子どもがすぐに「次」に向かえるからです。ゲームソフトだとそうはいきませんよね。買ってもらったらしばらく遊び続けることになり、なかなか「次」に向かえません。
加えて、食事には別のメリットもあります。だいたい月に一度くらいは家族で外食することもありますよね。その食事を子どものご褒美に設定する。「テストで100点を取れたら、焼き肉を食べに行く」という具合です。
すると、食事に行けたら、子どもは「僕がお父さんやお母さんを焼き肉に連れてきたんだ!」と誇らしく感じて、それこそ「次」へと向かうやる気が湧いてきます。一方、親からすれば、普段でも月に一度くらいは家族で外食するのですから、家計にはなんの痛手もないということになるのです(笑)。
利用者の声を拾い、進化していく「しゅくだいやる気ペン」
ここまで、3人のお母さんたちの他、沼田先生にも好評だった「しゅくだいやる気ペン」。ただ、「子どものやる気を引き出すスペシャリスト」である沼田先生には、少しだけ不満点もあったようで……。
実際に「しゅくだいやる気ペン」を3年生の姪っ子にしばらく使わせてみたんです。姪っ子はけっこう真面目に勉強をするタイプなんですが、「やる気パワー」が思ったよりも早く上限に達してしまうんですよ。
ゲーム性を過度にあお煽らないように、1日あたり1時間半ほどでいっぱいになる設定にしていました。
そうなると、「もうちょっと勉強しないの?」と聞いたときに、「だってもういっぱいなんだもん」と勉強を拒否する理由を与えることになるのです(苦笑)。
でも、「1年生くらいの子どもの集中力が続くのは30分が限度」というふうに聞いたこともありますが……。
それはあくまで平均値ということですね。1年生でも、30分よりずっと長く勉強を続けられる子どももいます。ただのゲームを子どもにやらせるのなら制限をかけるべきだと思いますが、「しゅくだいやる気ペン」はゲーム性がありつつもやっていることは勉強なのですから、もう少し上限が高くてもいいように思います。
そういった声は利用者からも頂いて、じつはつい最近設定を変更したのです。3日間連続で「やる気パワー」が最大に達すると、上限が開放されるようになっているんです。
なるほど! それはいいですね。大人が考える以上に、やる子はどんどんやりますよ!
こういった意見を取り入れて柔軟に設定を変えられるのも、「しゅくだいやる気ペン」がIoT文具だからこそ。利用者とともに進化していく「しゅくだいやる気ペン」で、みなさんの子どものやる気も引き出してみては?
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/松岡健三郎